母という字を書いてごらんなさい
やさしいように見えてむずかしい字です/格好のとれない字です。
サトウハチローの詩「母という字を書いてごらんなさい」
(詩集「おかあさん」)を思い出している
「母」という字はなるほど難しい。
<やせすぎたり 太りすぎたり ゆがんだり/泣き崩れたり・・
笑ってしまったり/お母さんにはないしょですが ほんとうです>
ほんのわずかなバランスや傾きの違いで同じ「母」の
字の表情が大きく変わってくる
その「母」という字は「笑ってしまったり」ではなく
「泣きくずれたり」の方ではないのか
埼玉県ふじみ野市の民家に男が医師を人質に
立てこもった事件である
医師は男に散弾銃で撃たれ、亡くなっている。
男の母親がこの医師の患者で、事件前日に亡くなっている。
母親の診療をめぐる男と医師のトラブルが事件の背景にあるとみられている。
男は寝たきりの母親と2人暮らしだったという。
母思いでもあったのだろう。
大切な母の死に曲がった了見がとりついてしまったのか
敵討ちかなにかのつもりかしらぬが、
逆恨みから母親を担当していた医師を撃ち、
世間を騒がせたとなれば母という字は決して喜ぶまい
息子の犯行に泣き叫んでいるだろう
男はそんなことさえ分からなかったか
地域の在宅医療を支えてきた
医師の命を奪った銃弾が悲しい
※引用元 中日春秋より